大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所郡山支部 昭和42年(少)33号 決定

少年 A(昭○・○・○生)

主文

少年を教護院に送致する。

少年に対して、通算九〇日を限度として、逃走防止設備のある特別の施設に収容し、その行動の自由を制限する強制的措置をとることができる。

理由

一  福島県○○児童相談所長の送致事実の要旨

(一)  少年は、満一四歳未満の少年であるが、別紙(一)記載の非行を犯し、昭和四一年七月一三日以降児童福祉司の在宅指導を受けていたところ、更に別紙(二)記載の非行を犯するに至り、当児童相談所で一時保護のうえ行動観察、判定の結果、少年を国立a学院に収容し保護するを妥当と認め、親権者の説得に当るとともに、国立a学院に連絡し、既に同学院の了解を得ている。

(二)  ところが、親権者は上記措置につき同意しない。

(三)  しかし、親権者の意に反しても少年を教護院に収容する必要があると認められるので、ここにその旨の審判を求めるべく、児童福祉法二七条一項四号の規定に基づき、別紙(一)、(二)の非行事実につき少年を貴裁判所に送致するとともに、逃走の虞れがあるので同法二七条の二に基づき、併せて行動の自由を制限する等の強制的措置の許可を求めるべく本件申請に及んだ。

二  当裁判所の判断

(1)  触法事実

別紙(一)及び(二)記載のとおり

(2)  適条

少年の上記所為中、窃盗の点は何れも刑法二三五条に(但し別紙(一)記載の触法事実中二、五、七、八、一〇の各事実については同法六〇条)、強姦の点は同法一七七条前段に、強姦未遂の点は同法一七九条一七七条前段に各該当する。

(3)  教護院送致の理由

イ  性格偏倚が大きいこと。即ち、人格が極めて未熟で、自己本位的幼小児的衝動のまま価値体系を逸脱した行動に走り勝ちで、社会規範によつて自己を抑制することができない。ことに少年には家庭における愛情欲求不満があり、その補償として反社会的衝動行動に走るという水路化がなされており、また年齢不相応の強い性的関心があつて、嗜虐的攻撃的な性的非行をなす傾きがある。

ロ  保護環境が劣悪であること。少年の父親は、定職なく好酒で酒乱の気味があり、妻の働きと生活保護によつて生活を支え、家庭内では夫婦間に争いが絶えず、その行状考え方に好ましくない点があつて到底健全とはいえない。少年は、父親が難聴で叱り飛ばすだけなのでこれを敬遠し、むしろ母親に親密感を持つているが、母親は働きに追われて放任状態にあり、またその指導にも一貫性がない。父親の拒否と母親の家外稼働のため、少年は愛情飢餓に陥り、その心情は不安定となつて、上記の如き性格の偏りを生む結果となつている。総じて、保護者に少年の監護を期待することは困難である。

ハ  非行歴が長いこと。窃盗非行は小学一年時の初発以来継続しており、性的非行は小学四年頃にその萌芽が発現している。尤も、本件窃盗の非行発覚後窃盗非行は一時見られなくなつた(性的非行が再発した)が、その根は深いので上記の根本的問題が解決されない限り、再発する可能性がある。

ニ  少年の上記の如き性格偏倚、行動傾向の問題点、保護環境の劣悪さおよび非行深度の深さを考慮すると、少年を在宅のまま指導することは困難であり、少年の年齢、資質、非行性の極度よりみて教護院に送致して訓練指導を施す必要があると認める。

(4)  強制的措置を付する理由

少年を教護院に送致する場合でも、強制的措置を必要と認めるときは少年法六条三項の申立を待つて上記送致決定と併せて強制的措置の言渡しができると解すべきであり、その場合には、同法一八条二項の都道府県知事または児童相談所長に対する事件の送致決定は要しないというべきである。

ところで、本件の場合少年を教護院に収容後分類並びに逃走防止のため、少年を逃走防正の設備のある特別の施設に収容し、その行動の自由を制限する強制的措置をとる必要が認められるところであるが、その期間は少年の性格並びに非行程度よりみて通算して九〇日を限度とするのが相当である。

(5)  よつて、少年法二四条一項二号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺剛男)

別紙一

少年は

第一 昭和四一年二月○日頃の午後六時三〇分頃福島県郡山市△△×番地内の新築工事現場にある飯場小屋のなかで、B(当時一五年)に対し、騒ぐと殺す旨言つて脅し、押し倒すなどの暴行を加えて、強いて同女を姦淫しようとしたが、同女に強く抵抗されたため、その目的を遂げなかつた。

第二 下記犯罪事実一覧表記載のとおり、昭和四〇年九月頃から昭和四一年二月×日までの間一四回に亘り、福島県郡山市○○○○△番○○号C方ほか九か所で、同人ほか九名所有の現金合計約一万五、六五〇円並びに釣竿、トランジスターラジオ等合計一九点(価格合計約一九三〇円相当)を窃取した。

ものである。

犯罪事実一覧表

番号

犯行日時

昭和年・月・日頃

犯行場所

被害者

窃取物件

価格

(約・円)

共犯者

四〇・九

福島県郡山市○○○○△番○号 C方

釣竿一組

二〇〇

四〇・一〇

前同所○番××号 D方

現金五〇円位

四〇・一一・〇

前同所△番○△号 C方

現金二、〇〇〇円位トランジスターラジオ一台

一、五〇〇

四〇・一二・〇〇

現金一、〇三〇円位

四〇・一二・××

前同所○○番○号 E方

現金六〇〇円位

四一・一・初

前同所××番○号 F方

現金三〇〇円位

四一・一・初

前同所△番××号 G方

現金 一万一、〇〇〇円位

四一・一・〇

前同所○○番○号 H方

みかん一六個位

二〇〇

四一・一・〇〇

前同所○○○○△番××号 G方

現金一、二〇〇円位

一〇

四一・一・末

前同所○○○○○○番×号 H方

菓子

現金四五〇円位

三〇

一一

四一・二・〇

前同所△△番○号 J方

現金四〇〇円位

一二

四一・二・×

前同所××番○○号 K方

現金一、三〇〇円位

一三

四一・二・△△

前同所△△番○号 L方

現金一、三〇〇円位

一四

四一・二・××

前同所△番××号 M方

現金七〇〇円位

別紙二

少年は、昭和四一年一一月××日頃の午後五時頃福島県郡山市△△所在の遊園地附近を通行中の○(当時一三年)の姿を見て同女を姦淫しようと企て、同女を同所□□番○○号P方附近まで連行し、手製の小刀を突きつけて「騒ぐと殺すぞ」と脅し、同女をその場に押し倒し、口を塞ぐなどして同女の反抗を抑圧したうえ、強いて同女を姦淫したものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例